胃、十二指腸潰瘍
胃の粘膜を攻撃する因子(胃酸)と、粘膜を守る因子(粘液や血流など)のバランスがくずれることが原因と言われています。
ストレスや薬物(痛み止め等)も原因とされてきましたが、近年、胃に生息するヘリコバクター・ピロリという菌(以下、ピロリ菌)が、
重要な攻撃因子として注目されています。
潰瘍の主な症状は、みぞおちの痛みや吐き気、胸やけ等が多くみられます。症状は特に空腹時に強い傾向があります。
胃酸をおさえる強力な薬があり、潰瘍の治療で手術や入院が必要なことは殆どありませんが、潰瘍面で血管が切れて出血することがあります(出血性潰瘍)。
血を吐いたり、コールタール状の黒い便が出たりすれば出血が強く疑われますので、直ちに治療が必要です。
出血性胃・十二指腸潰瘍の治療は、血管を内視鏡的に焼灼したり、薬品を打ち込んだり、クリップで閉じたりして行いますが、
熟練した専門医が行えば90%以上は止血可能になっています。
当院でも電気メスとAPC(アルゴンガスによる焼灼術)機器を導入して消化管出血に対応しています。
胃炎
ストレスや薬等による急性胃炎と主にピロリ菌感染による慢性胃炎があります。
胃の壁が薄くなっている状態を萎縮性胃炎といい、発がんのリスクが高いとされています。
ピロリ菌について
胃の中に住む菌で中年以降の日本人の70~80%が保有しているとされています。
胃、十二指腸潰瘍、胃がんの最大の原因です。潰瘍や がんの既往がある人だけでなく、ピロリ菌感染者すべてで除菌治療が保険診療で認められています。
除菌治療は胃酸分泌抑制薬とペニシリン等2種類の抗生物質を7日間服用し95%以上で除菌が成功しますが、副作用(下痢、じんましん、肝障害等)の報告もあり、高齢者やアレルギー体質の人は注意が必要です。
注意していただきたいのは除菌後も発がんリスクの低下は限定的であり、除菌成功後も1年に1度の内視鏡検査が必要です。
また胃がん検診として行われているピロリ菌の検査はスクリーニング検査としては非常に有効ですが、決して精度が高いとはいえず、A判定、感染なしと診断されても約10%に偽陰性があるとされ、内視鏡検査や他の診断法で確認が必要です。
機能性ディスペプシア(FD: functional dyspepsia)
内視鏡等の検査で器質的異常が見られないにもかかわらず、胃痛や胃もたれ等、不快な症状が持続する病態です。
命に関わるものではありませんが、食事が美味しくない、気分が塞いで仕事や学校などの社会生活に支障を来すなど生活の質を低下させます。
胃の運動異常や内臓知覚過敏、心理的要因、食生活習慣、ストレスなどが関係しているとされています。
アニサキス症
アニサキスという寄生虫の幼虫が、胃や腸等の消化管にかみついて激しい腹痛を起こす疾患です。
アニサキスの成虫はクジラなどに寄生する寄生虫で、幼虫はオキアミを経て、サバ、イワシ、イカ、ブリ、アジ、カツオ等さまざまな魚に寄生して感染幼虫となります。
刺身や寿司等、生の魚を食べて6~9時間後に激しい腹痛や吐き気が起こります。新鮮な魚ほどアニサキスも元気ですので、漁師町ではありふれた疾患になっています。
治療は、右写真のように内視鏡にて直接、虫体を摘出します。摘出した直後から痛みは消失していきます。
胃ポリープ
多くが良性で がんになる可能性の低いとされる胃底腺ポリープや過形成性ポリープと呼ばれるものですが、
腺腫と呼ばれるものの一部は、将来がんになる可能性があるとされています。
区別が難しいときは、ポリープの一部の組織をかじって病理組織検査に出して、良・悪性を確認する必要があります。
良性でも大きなものや出血の原因になるようなものは内視鏡的切除が勧められます。
当院でも日帰りから数日の入院で行っています。
胃がん
食生活の変化、がん検診の普及、治療の進歩等で死亡率は年々減少していますが、
男性のがん死亡では肺がんに続いて第2位で、毎年約5万人が亡くなっています。
危険因子は塩分の多い食事等が挙げられていますが、
近年、胃潰瘍の原因としても注目されているピロリ菌も危険因子として注目されています。
5年生存率で見るとステージ1で約90%、ステージ2で70%、
つまり多くが治癒しますが、ステージ3では40%、ステージ4になると15%程しかなく、早期発見が非常に重要です。
早期がんはもちろん進行がんであってもある程度までは全く無症状です。
昔から胃は丈夫だったから大丈夫、食欲があるから、食べ物が美味しいから、痩せてないから、親族に胃がんはいないから大丈夫、全くそんなことはありません。
早期発見には内視鏡検査が極めて有効であり、残念ながら従来、胃がん検診として広く行われているバリウム検査では早期発見は困難といわざるをえません。
ただし、良性の潰瘍やポリープと区別しがたい がんもあり、熟練した内視鏡専門医でないと見過ごされる可能性があります。
胃がん治療の原則は がんを切り取ることです。
早期がんではお腹のキズが小さく、術後の痛みも軽い、腹腔鏡を使った手術もありますし、さらに、浅く小さな がんでは、胃を切らずに内視鏡を使って病変部だけを切り取ることも可能です。

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